謎だらけの放課後







 新宿中央公園。

 そこに――、

 醍醐 雄矢は緋勇 龍麻から呼び出されていた。

 如月 翡翠は緋勇 龍麻から呼び出されていた。

 アラン 蔵人は緋勇 龍麻から呼び出されていた。

 マリィ・クレアは緋勇 龍麻から呼び出されていた。

 と言うわけで、醍醐・如月・アラン・マリィの四神カルテットは、新宿中央公園にいた。

「呼び出されて来たものの、一体どこに居るんだ、龍麻は?」

 だだっ広い公園である、特定の場所指定などなく、ただ「新宿中央公園に放課後来るように」としか言われていない。

 きっぱりと断言しよう、大雑把過ぎた。

「醍醐君、どうして龍麻と一緒にここまで来なかったんだい? 同じ学校だろう?」

「もっと言えば、クラスメイトネ」

「スマン。放課後、ちょっとクラブの後輩に捕まってな、部活の引継ぎのことで聞かれて、気が付いたときには、龍麻はもうクラスにいなかった」

 深まり行く秋、公園の紅葉も見事なものである。

「ネェ、龍麻オ兄チャン、マリィたちにナンの用ナノ?」

 少女の呟きと共に、三対の視線が醍醐に向けられる。

 龍麻の最も近くにいる彼ならば、知っているのではないかと、視線は言っていた。

 だが、醍醐も知らない。

「ときどき、龍麻が何を考えているのか、俺でも分からんよ」

「まあ、それは仕方ないさ。彼が真顔のときほど、思考回路が読めなくなるからね」

「――ッ、Look it! あそこにいるのは、アミーゴだーヨ」

 1kmから先でも美人の顔なら見分けが付くと言う変わった目の良さをしているアランが、離れたところにあるベンチが並べられている通路を指差した。

 その指先を視線で追って、マリィも歓声を上げた。

「Oh! 龍麻オ兄チャンっ」

 バラバラに公園に到着した4人が、龍麻を探す内に全員揃ったのだが、全員揃ってから四半時間も歩いての、呼び出し主の発見だった。

 右前衛に醍醐。

 左前衛に如月。

 右後衛にアラン。

 左後衛にマリィ。

 そういう隊列だったが、別にこれから地下迷宮に潜りに行くわけでも、戦闘が始まるわけでもなかった。

 ある意味、未知との遭遇ではあるが。

 思考回路の半分が読めない相手というのは、充分未知と言ってもいいだろう。

 近付けば近付くほど、ベンチに座っている人物は龍麻だと認識することができた。

 と同時に、同じベンチに座って、彼と談笑している人物の姿も認識することができた。

 長い黒髪、色白い肌、黒尽くめの――、

 少年だった。

 醍醐らには、その一風変わった黒い学ランの人物に見覚えはなかった。少なくとも、彼らの仲間ではない。

 近付けば、龍麻とその少年との会話が聞こえて来た。

「【食】】」(←エコーが掛かっている)

「【肉】」

「【鍋】】」

「【良】」

「【闇】】」

「【悩】」

「【雫】】」

「【驚】」

「【作】】」

「【変】」

「【怒】】」

「【悪】」

「【許】】」

「【友】」

「【帰】】」

「【今】」

「【待】】」

「【別】」

 ……二人は、仲間内から「龍麻語」「ひーちゃん語」と呼ばれる言語で喋っていた。

 はっきり言って、常人に理解できる言語ではない。

 だが、不思議なことに、仲間内では美里と四神だけは、龍麻の喋っている言葉が理解できた。と同時に、彼と接するようになってから、言動に過激なツッコミ属性かボケ属性を帯びるようになっていた。

 しかし、彼らとて理解できるのであって、喋ることはできない。

 そういう点では、今さっき、龍麻に闇鍋を美味しく楽しむコツを教えていった少年は、只者ではないだろう。

 ベンチから立ちあがり、立ち去って行った少年に手を振り続けてから、龍麻は近くで立ち止まっている醍醐らに気付いたようだった。

「【呼】」

「あ、ああ、呼ばれて来てみたんだが、それよりも、今のは誰なんだ?」

「【奴】」

「うず・おうす……?」

「渦 王須というのは、彼の本名なのかい?」

「【難】」

「アミーゴも知らないノーネ」

「龍麻オ兄チャンのフレンド?」

「【友】」

「類は友を呼ぶ、……か」

 しみじみと醍醐が呟いていると、傍らで腕組みをしながら、如月がベンチに座る龍麻を見下ろした。

「それで今日、僕らを呼んだのは一体何の用だい?」

「【親】」

「Oh、親睦会、イーネー」

「『シンボクカイ』って、ナーニ?」

「【親】」

「へェ、そうなんだ。マリィ、また一つ賢くなっちゃったネ」

「ところで、どうして俺たちなんだ?」

「【順】」

「そうか、別に意味はないのか。その口調だと、他の方陣技メンバーとも親睦会を開いているようだが」

「【前】」

「アミーゴ、ズルいデースッ。アオーイとヒナーノとサヤーカちゃんと4人で親睦会ナンテッ!」

「【次】」

「No! それは、お断りデス」

「どういう意味だ、アラン?」

 と言いながら、醍醐はアランの顔面を掴んだ。



 ――アイアン・クロー!!



 みしみしみし。

「オゥッ!!」

 醍醐のプロレス技ツッコミに、アランが悲鳴を上げる。

 ちなみに、龍麻は「次回は不動禁仁宮陣のメンバーと親睦会だが、お前も来るか?」と言ったのである。

 それを断固として拒否されれば、不動禁仁宮陣メンバーの一人としては、醍醐もツッコミの一つくらい入れたくなるだろう。

「止めないか二人とも。あるいはやるならもっと派手にやってくれ、そうすればパフォーマンスと勘違いして、通行人からお捻りが貰えるかもしれないからね」

「ヒスイ、煽っちゃダメッ」



 ――アグニ・サラマンデル!!



 さながら人体発火現象のように、如月は生ける火柱と化した。

 焼き加減はレアなので、彼の生命を脅かすことはない。ただし、煤けた様は「王蘭のプリンセス」の肩書を失墜させるものであったが。

 如月とアランが公園の地面に倒れたままであるにも関わらず、大して問題ではないような表情で龍麻はベンチに座ったままそれを見下ろしていた。実際、見掛けほどダメージを受けているわけではなかったが。

「【行】」

「そうだな、親睦会なら、特に構わんだろう」

「ふ、ふふふッ、ところで予算は誰持ちだい?」

「【共】」

「皆で旧校舎で稼いだ金で飲み食いと言うのは……いいのか?」

「み、ミンナで稼いだマニーを、ミンナで使う。ダイジョーブ」

「ところで、どこに行くノ?」

「【店】」

「店名からして、洋食屋か?」

「【悩】」

「頼むから、知ってる店にしてくれ」

「【悲】」

「いやまあ、そういう気持ちも分からない訳じゃないんだがな……」

「【得】」

「へぇ、開店一周年記念サービス実施中か、それは確かにお得だね」

「【行】」

「あぁ、そうだな」

「では、参ろうか」

「銭は稼げ、言いマース」

「【違】」

「「それを言うなら、『善は急げ』だッ!」」

 言葉によるツッコミと同時に、円空破と稲妻レッグラリアートと飛水八相が、物理的にアランをツッコんだ。

 ちなみに、日本語がまた充分ではないマリィはポカンとしていたが、コホンと小さく咳払いして申し出た。

「……それじゃ、行コ?」



 その行く先は――“ヴォイス・オブ・ザ・ユグドラシル”



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 “世界樹の声”……おや、どこかで聞いたことがあるような名前ですねぇ(笑)。
 そこには店のマスコットの三毛猫や、女呼ばわりされるとキレる中性的な美少年のウエイターがいたりするんでしょうか?

 それでは――


【世界樹の小枝】一周年記念&管理人の病気見舞いに戴いてしまいました(T▽T)。

管理人も忘れていたサイト開設日を憶えてて下さったばかりか、記念SSまで…本当にありがとうございます、那由他さん。
しかし那由他さんのコメントを読んで、つい外道策士美少年&赤猿ウェイターのバイト風景を想像した私。
彼らの一騒動を書いてみたいかも…などと思ったり(笑)。


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