ヤキモチ
「……ムカツク」
ポツリと、聞き逃しそうなくらいの音量で呟いた少女。
猫が人の言葉を喋ったような甘ったるい声だから、その言葉に迫力なんて無く。
ただ、眉間に寄せられた眉の形が、少女の言葉が冗談でないことを物語る。
「何が、だ?」
「京一と雄ちゃんが仲良いのが」
「…………は?」
間の抜けた返事を返したオレを、誰が責めようか。
が、オレを見上げる少女・須磨子の表情は真剣だ。
放課後の教室で、窓から見える夕焼けがキレイだ。
窓際の一番後ろの席がオレ、その前が須磨子の席だ。
須磨子は椅子に逆向きに座って、オレの方を向いている。
男女がふたりっきりなんてドラマっぽいシチュエーションであるが。
如何せん、今日中に提出しなけりゃ卒業がヤバイって課題と格闘中。
他のヤツらはナンダカンダと理由を付けて、サッサと下校。
オレを見捨てずに付き合ってくれてるのは須磨子だけだった。
「スー…オレお前の言う事、時々わかんねぇよ」
「わかんなくないもん」
不機嫌そうな表情を作るが、全然怖くない。
コロコロ変わる表情は見てて飽きない。可愛いな、と思う。
美少女の枠に入るようなタイプじゃぁナイと思う。
10人が10人とも振り返るって女の子ではない。いいトコ、半分くらいか。
今流行りの癒し系…ってのも、違うと思う。
表現しちまえば、割と可愛い感じ…ってので事足りてしまう。
ケド、この割と可愛い感じの少女に骨抜きになってる野郎は、結構いる。
こいつの呼ぶ所の、雄ちゃん…とかな。
「で、何がムカツイちゃうって?」
「京一がいるから雄ちゃんの一番になれない」
「イチバン?」
「いいな〜、親友〜〜」
……やっぱ、わかんねぇなぁ……
シャーペンの後ろでカシカシと頭を掻いて、須磨子の主張をジックリ聞くことにした。
オレも、自分で言うのもナンだけど随分と気が長くなったと思う。
コイツと連んでると、自然とこうなるモンらしい。
あの取っ付きにくかった如月も、嫌味っぽかった御門も、
最近じゃ嘘みたいに柔らかくなった。笑った顔とか、な。
いや、自信の笑みや皮肉った笑み以外の笑顔を
アイツらが人に向けるようになった事自体が奇跡的と言ってもいいかもしんねぇ。
「雄ちゃんって、よく究極の選択!とかあるでしょ?あれで
『恋人と親友に危機が!助けられるのは片方だけ。キミならどっち!?』
っていうの、絶対迷うタイプだよね」
「あ〜…迷うだろうなぁ、死ぬほど」
「でしょぉ?で、友情を取るタイプ」
「“漢”と書いて“オトコ”と読むって感じだからなぁ」
「そしたら、雄ちゃんの一番って、京一ってコトよねぇ…ズルイな〜、拳で語り合えちゃうし」
「お前、拳で語り合う相手が欲しいのか?」
須磨子。お前と拳で語り合って無事でいられるのは、壬生くらいじゃなかろうか。
醍醐も紫暮も、一度負けてるし。オレは素手じゃぁ、ハッキリ言って自信がナイ。
「拳で云々はともかくね。京一ってイイトコ持ってき放題だよねぇ」
「オレがか?」
「京一は私が相棒なんでしょ?で、雄ちゃんが親友。弟子には諸羽がいるし。
なんだかズルイなー。雄ちゃんくらい譲って欲しいなー」
須磨子の主張は、要するにオレの親友が醍醐で、醍醐の親友がオレ。
そのせいで自分が一番になれないのが、‘ムカツク’と。
「いいな〜いいなぁ〜京一のそのポジション、羨ましいな〜」
「変なヤキモチ焼くなぁ、スーは」
醍醐のヤツ、須磨子のペースに相当振り回されてんだろうな、この分じゃ。
取り敢えず、今度醍醐には
『究極の選択』を迫られたら、迷わず『恋人』を取れと進言しておくか。
くすvv(←怪しい)。今回のお題は、
『醍醐と小蒔(または京一)の仲の良さにヤキモチを焼く須磨子ちゃん』
だったのですが、いかがでしょうか?
頬を膨らませて京一に突っかかる彼女の姿が容易に想像できてしまい、ほほえましくなりました(^^)。
ありがとうです、淑雪さま♪
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